「なら新津さんは、シェフ工房のプロになったんだな」
「プロ? 私は、べつにそこまでではーー」
「それでお金を稼いでご飯を食べていたらプロだろ」
株式会社シェフ工房企画開発室 森崎緩 240p
作者の森崎緩(もりざき ゆるか)さんは、私は本作がお初です。Amazonで他の作品についてざっと見てみると、男女の恋愛ものもありますが、ご飯(あえてこういう表現にします)とお仕事を題材にした作品も本作以外にいくつかあります。
本作もこの系譜、という所でしょうか。
私がこの本を手に取ったきっかけは、書店で必要な実用書をカゴに入れた後、
「実用書ばっかり買うのもなんだし、なんかこう、サクッと読める小説が欲しいな」
と思い、たまたま目についたのがこの小説でした。
お仕事だけでは、興味がある分野ではないとよむのがしんどい。グルメだけでは物足りない。しかし、その二つが混ざり合ったのならきっとおもしろい。
そう思って、手に取った本でした。
さて、あらすじ紹介いきまーす
札幌にあるキッチン用品メーカーに就職した新津。トング式ピーラー、軽量お玉やメジャースプーン。ちょっと便利なアイディアグッズが人気の会社で、次なるヒット商品に取り組むが……。製品知識のない営業マンや天才発明家の先輩、手厳しい製造担当など、一癖あるメンバーに囲まれて悪戦苦闘。やがて過去の挫折と向き合う中で自分を見つめ直していきーー。読んで満腹、美味しいレシピ満載の絶品グルメ×お仕事小説!
裏表紙より
主人公は新津七雪。
興味関心ある事を突き詰める、オタク気質な新卒の女の子です。
彼女が興味があるのは株式会社シェフ工房の製品。
学生時代はスキーの選手として長年活躍していましたが、怪我で引退し、その後マネージャーとなり、その際に料理に目覚めた、とのこと。
この小説は、全てこの主人公、新津の視点で進みます。
主人公は何事もトライアンドエラー。壁にぶつかっても周りの力を借りて解決していく姿は応援したくなる!一人称の小説って、主人公をどのように設定するかが鍵ですからね。
あえて、ものすごーく嫌な奴とか問題だらけにして、という小説もありますが、そういう小説って過程がしんどかったりするんですよねぇ
嫌ミスの女王、湊かなえの「告白」なんかは、その技術を使った傑作だと思いますが、こう、サクッと読むには向いてない! 面白いけど、「さあ読むぞ!」って腰を据えてからでないと思っても見ない展開にいきなり殴られて、しばらく立ち直れない! いやもうラストの先生の語りだけでも読む価値ありですが!!!
まあそれは置いておいて。
この主人公、新津はとてもフレッシュで頑張り屋で、しかし挫折経験からくる暗さも、等身大の人間感をよく表現しています。特に、職場に新人が来る4月なんかは読むのおすすめではないですかね!
特に私が好きな箇所は、大学時代、同じスキー部で活躍した友人、円城寺綾への嫉妬シーンですね!このシーンは、作中に何度も出てきます。その度に、「二人の関係はどうなっちゃうの? まさかこのまま関係性がフェードアウト?」とサクッと読める中に、咀嚼しきれない物が残ります。
怪我による挫折経験と曖昧な同輩への態度。誰しも経験がある、等身大の人間感がよく出ていたシーン達ではないでしょうか。
そして、新津の主人公たる所以! それは、友人への嫉妬を折り合いをつけて、最後に彼女を自分のホームたる一人暮らしの部屋に招くラストシーン!
新津の成長を一番に表した、これ以上ないラストシーンだと思います。
挫折してから得た、自分が夢中になれるもの。
それらを活かせる仕事につけて、努力して、周囲にも認められた。だからこそ、一皮剥けて、素直に友人を招き、共に食事を楽しめることができた。
等身大の、成長の証。素晴らしいです✨
もう4月も後半です。しかし、一般新入社員はまだまだ駆け出しで慣れない仕事に悩んでいるかもしれません。
その時、その新入社員にも、そして教育係の先輩にもオススメしたい、元気が出る小説でした✨